倉持隆夫著「マイクは死んでも離さない」の寂しさ
倉持隆夫の「マイクは死んでも離さない」(新潮社)を読んだ。

倉持隆夫著
「マイクは死んでも離さない」(新潮社)
流血アナが10年ぶりの"実況中継"...倉持隆夫著「マイクは死んでも離さない」倉持隆夫は、もともとプロレス好きではなかったが、先輩の徳光和夫に勧められ、プロレス担当になった。白い口ひげをたくわえ、ダンディーなスペイン住民になっていた倉持隆夫さん アナウンサーはジャーナリスト(取材者)か? それともエンターテイナー(出演者)か? プロレスの黄金期を実況した元日本テレビアナウンサーの倉持隆夫さん(69)が初の著書「マイクは死んでも離さない」(新潮社、1575円)を出版した。かつて悪役レスラーに襲撃され額を15針縫った"流血アナ"が、10年ぶりに表舞台に姿を見せ、低迷するスポーツ中継の復興を願った。
日本テレビを定年退職してから、倉持さんはスペイン・セビリアで暮らしている。9年間の異国体験を生かして老後の生活スタイルを提案する著書を構想していたが、舞い込んできた執筆依頼は「プロレス回顧」だった。「失望が半分ありました。プロレスは終わったんですよ」
日テレのプロレス中継は昨年3月、55年の歴史に幕を下ろした。ジャイアント馬場さん、ジャンボ鶴田さん、三沢光晴さん...歴代エースは鬼籍に入った。放送席の元エースは「プロレスに"筋書き"があることは僕も否定しない」と宣言しつつ"古き良き時代"を優しく振り返った。行間からにじみ出るのは、アナウンサーという人種の葛藤(かっとう)だ。
1980年5月2日、後楽園ホール。アブドーラ・ザ・ブッチャー対ザ・シークの場外乱闘に巻き込まれ、流血、失神、病院送り、15針縫合という目にあった。やらせではなかった。米国ではアナウンサーも興行の出演者というショービジネス。日本でもそうだと勘違いしたシークの暴走だったことを、馬場さんからの謝罪で知らされたという。
報道部は事件扱いし、実父は日テレに猛抗議した。だが倉持さんは、襲撃される瞬間、切られやすいように自ら額を突き出し"プロレス的受け身"を実践したとか。「アナウンサー民族というのは、性質は出たがり屋ですから」米国と同じ"エンターテイナー"としての役割を自任していた。
反面、非情なジャーナリストでもあった。2000年5月13日、ジャンボ鶴田さんがマニラで死亡したという未確認情報が入った。人脈を駆使してウラ取りに走った。情報を伝えると、マニラ支局のスタッフは棺おけの中までたどり着いた。直後に鶴田さんの夫人から「死に顔は流さないで」と電話で泣きつかれた。「特ダネですから、報道局が聞いてくれないのはわかっていた。後味の悪い報道局長賞でした」いまだに夫人とは和解できていない。
現在暮らしているスペインでは、サッカー、ハンドボール、闘牛が3大スポーツで、地上波のテレビ中継が充実しているという。昨年4月からは何とプロレス(WWE)中継がスタートした。一方、日本では王道だったプロ野球巨人戦ですら地上波中継が激減。かつてプロレス実況のライバルだった古舘伊知郎はニュースキャスターに。「はがゆいですね。スポーツ中継は難しい時代。でも民放の老舗(日テレ)が受け継いできたスポーツ実況の精神はなくさないでほしい」それは「人間味のある優しさ」、そして「心の襞(ひだ)に触れるモノの見方」という。
http://hochi.yomiuri.co.jp/book/news/20100126-OHT1T00045.htm
実況は、大先輩の清水一郎や越智正典に学んだ。古館伊知郎と比べられるが、本人にそんな気はない。
視聴率を気にかけ、日本テレビに借金に来る"リアルな馬場"を見ていたが、局からは、ジャイアント馬場はスポーツ選手と割り切って放送しろと言われ、それに徹した。
宮仕えが大好きというわけではないので、定年後再就職はしなかったが、かといって日テレ在職中フリーにはならなかった。
要するに、倉持隆夫という人間は、高度経済成長・終身雇用の時代に会社を支えた真面目なサラリーマンの典型なのである。
だから、本文も資料を調べてきっちりまとめている。
プロレスラーとも親しく付き合い、彼らを愛そうとした努力が書かれている。アントニオ猪木のファンであることも告白している。
だが、やはり、あとがきを見ると、結局プロレスを好きになれなかった本音が示唆されている。
面白いけれど、寂しさも否定できない昭和プロレス本だ。
終末時代に入ってしまったプロレス界を象徴するような書籍である。
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